【書評】税金と通して歴史を読み直そう!—『税金の世界史』ドミニク・フリスビー 河出書房新社

 

 

本書は、税金を通してたくさんの世界史上の出来事を紐解く、まさに「税金の世界史』、タイトルに偽りなしである。

前半部分は世界史上のさまざまな出来事の背景に税制が影響を与えていたことをみていく。本書を読んで、世界の歴史上の大事件の裏側には、こんなにも当時の税金の在り方が影響していたのかと驚いた。ほとんどすべての戦争、革命、偉大な宗教の始まりには人々を苦しめる税金の影響があったのではとさえ感じてしまう。

後半は、著書が考える理想的な税制が説明され、こんな税制どうだろうかと読者に投げかけられ、自分だったらどんな税制がいいかなと理想の税制を思い浮かべながら読める。

また、本書では全体を通じて、税金に関するトリビア的な豆知識もふんだんに紹介されていて、それらだけでも興味深く読むことができる。

 

税制のライフサイクル

税制が生まれてから死ぬまでには、ある程度の普遍的なライフサイクルがあるらしい。

新たな税金が課されるようになるのは、もちろん政府が資金を必要とする時である。それは、多くの場合、戦争だ。戦争には装備の購入費や物資の輸送など金がかかる。その時はあくまで一時的なものとして導入されるが、その期限はいつのまにか撤廃される。そして税率はじりじりと上がり続ける。一度成立した税金は、人々の生活に大きな影響を与えるが、困った人々が声を上げてもなかなか廃止することはできない。そして、革命や反乱が起きて廃止されるか、民主的な過程で緩和される。

例えば、かつてイングランドには家の窓の数に対してかけられる『窓税』などというものがあった。それは、アイルランド紛争のためにオランダから借りた借金を返すために導入されたものだった。税額は、導入から100年後には3倍になった。人々は税金を逃れるために窓の数を減らしたため、換気が悪くなりコレラチフスなどの伝染病が流行した。

 

インフレ税

人々の財産を奪うという意味では、インフレも立派な税金だという考え方は新鮮だった。

インフレが起こると人々の持つ財産の実質的な価値は下がるというのはもちろんのことだ。だが、しばしばインフレは政府による通貨の切り下げによって、意図的に引き起こされてきた。それは、政府の借金返済や財政支出の拡大のためで、普通に考えれば増税によって賄うべきものだろう。増税の代わりにインフレを意図して引き起こしているのであれば、それならもはやそれは税金と言っていいのではないかと確かに思う。

タチが悪いことに、インフレは労働者にとっては実質賃金の減少、貯蓄の価値の低下とマイナスに働く一方で、金融街や経営者、金融資産をもつ資産家にとってはプラスに働くことである。

政府に返済できないほどの借金があると、いずれこのような解決策が取られるだろう(日本政府の借金を真剣に返すためにはどれだけの増税が必要か考えてみると、解決策としてインフレが挙げられる)。そう考えると、政府の借金を安易に許すよりも、その財政支出は本当に必要なものなのか真剣に議論したうえで、本当に必要なものであれば、増税により賄うべきだろう。ナポレオン戦争時の借金も、増税によっていれば、人々は真剣に必要性を議論し、もっと早くに終わった戦争はきっとあるはずだ。

安易な借金は、安易な戦争を招いた。アダム・スミスも似たような指摘をしていたし、グラッドストンもその半世紀後に同様の発言をしていた。「戦争の資金を借金で調達するやり方は、計画的かつ継続的に国民を欺く大規模な策略である。その結果はずっと先の世にあらわれる。国民は自分が何をしているのかわかっていない。」

おわりに

税制はその社会を表す。歴史上存在した税制を知ると、誰にいくら課税するべきか考えるときに、もっと自由に考えることができる。日本の税制は毎年、少しずつ少しずつ微調整が加えられてはいるが、どうしても固定的な感がある。著者が本書の後半で発表しているように、やわらかい頭でもっと自由に、自分が納得できる税制を考え、ひいては社会の在り方を考えてみるのはいかがだろうか。